今月のテーマ 中国四千年の歴史
京都・有斐斎弘道館 京菓子展2022 手のひらの自然。今年のテーマは『枕草子』
清少納言はどうしてこんなに優れた表現ができるのだろうと考えていると、平安時代の才女たちの学習ツールは中国にルーツがあるのだとわかってきました。頻繁に登場する白居易の「白氏文集」。こちらを紐解きながら枕草子の序章を読むように古の中国へと旅に出かけましょう。
長月は「枕草子」のお菓子をお作りいたします。
卯時の杯
白居易はお酒が大好きであったようで、詩の中にお酒のテイストを沢山表現しています。「緑色をした飴のようにとろりとした飲み口の酒」
酒飲み友達を誘う詩もあります。内容は「緑の酒が、かめの台にはりつくほどに飴のようにとろりとしたうまい酒ができたから、詩句にうたってお誘いしてみようかな。朝の杯を挙げて一緒に酔いたいなあ」と詠んでいます。この詩のお酒は竹葉青酒という、竹の葉を漬けてつくられる薬酒。血を養う効能があると言われています。
竹葉青酒とジャスミン茶とライチのお酒の錦玉羹です。
卯時とは:十二時辰の名称で、朝の5時から7時の頃を指します。朝の酒杯、気持ちよさそうですね♡
原材料:砂糖 竹葉青酒 ライチ ジャスミン茶 緑茶 寒天
僥倖の五色(ぎょうこうのごしき)
幸せになりたいと願う気持ちは四千年前も今も変わりません。僥倖とは偶然に得る幸せの事です。偶然の幸せなんて滅多にないですよね。と思われるかもしれませんが、僥倖の五色を心に秘めれば、向こうから幸せがどんどんやってきます
黄色:好奇心
赤色:冒険する心
青色:失敗しても努力する心
緑色:どんなことも楽しむ心
白色:柔軟な心
心の迷路に迷ったら、この五色を思い出してみてください。
月餅餡入りのこなし製です。月餅。中国の菓子で、昔はお供え物として中秋節に食べられていました。月に見立てて丸く平たい形をしています。
原材料:北海道小豆 砂糖 大手芒 黒胡麻 胡桃 ごま油 蜂蜜 シナモンパウダー ごま油 ササニシキ米粉 羽二重粉 /金箔
麻球マーチュウ
麻球。中国で考案された点心料理のひとつです。漢の時代、漢の文帝が、戦いに勝利した事を祝う行事として「元宵節」が行われていました。その行事食の中に「元宵」という団子があり、それが麻球、あんこを餅で包んで胡麻をまぶして揚げた菓子、ゴマ団子の由来ではないかと言われています。
漢の時代とサラッと言いましたが、紀元前206年~西暦220年の遥か遥か昔のことです。当然のこと、砂糖や植物油は存在していないという時代なので、油で揚げるのではなく、茹でていた説が有力のようです。
甘味は蜂蜜や麦芽糖(水あめ)などであったでしょうか?
小豆は漢の時代にはあったと言うことなので、米のとぎ汁に米麴を加えて小豆を入れ甘く煮詰めて餡にしたのでしょうか?想像するとワクワクします
原材料:北海道大納言 砂糖 蜂蜜 金胡麻 上用粉 羽二重粉 葛粉
杏仁豆腐(シィンレェンドォゥフゥー)
杏仁豆腐。中国発祥のデザートで薬膳料理の一種です。喘息の治療薬である杏の種の中の「仁」杏仁の粉末で苦味を消すために甘くして服用しやすくした料理です。
杏仁豆腐とパイナップルのレモン錦玉羹です。杏仁豆腐にかかせないクコの実も添えました。
クコの実は抗酸化物質を豊富に含んでいて、免疫力を高めてくれます。喉がいたくて体調がすぐれないときはに効果的です。ちなみに、杏仁のアロマ効果は疲れた脳や心を癒すと言われています。なんと素晴らしいデザートなのでしょう♡
原材料:砂糖 パイナップル クコの実 ディル 牛乳 生クリーム 杏仁 レモン 寒天 脱脂粉乳 粉末油脂
葉月のまめいち通信
今月のテーマは「中国四千年の歴史」
京都・有斐斎弘道館 京菓子展2022 手のひらの自然。今年のテーマは『枕草子』。
『枕草子』は、平安時代中期に一条天皇の中宮定子に仕えた女房、清少納言により執筆された随筆です。枕草子から受け取るイメージをカタチにして、皆さんも京菓子展チャレンジしませんか?
で、何故に中国四千年の歴史?
春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる
(何と言っても春は夜明けよ。空がだんだんと白んできて やがて山際がほんのり明るくなって 紫がかった雲が細くたなびいている)
あまりにも有名な文章です。有名すぎて深く理解しようとすることすら思いつかずにいましたが、今回和菓子にするため、細かく向き合うと、その描写力に吸い込まれてしまいます。
自然、人物、音、香り…読み進めていくと、まるで自分が清少納言のレンズを通して見ているような感覚になり、動くもの、光るもの様々にリアルタイムでクリアに感じ取ることができます。
どうして、こんなに優れた表現ができるのだろうと読み進めていきますと、ちょいちょい現れる【白居易】の白氏文集。
白居易???っとなるのがまめいちさんのいい所!ここから遠回りしますよ!どうぞお付き合いください!
白居易(772∼846)唐代中期の詩人。
文芸に深い関心がある一条天皇の宮廷では、白居易の詩がよくよまれていたそうです。
よくよまれていた!という事は、宮廷では“白居易ブーム”という事になります。白居易の素敵なフレーズを真似して笑いあうなんて光景も目に浮かびます。
まめいち流の理解法の一例として:
「全集中」「水の呼吸」鬼滅の刃ファンならピンとくる!
「水色のマフラーにコート」冬のソナタファンならピンとくる!
「横断歩道を4人で渡る横から写真」ビートルズファンならピンとくる!
中宮定子様も清少納言も“白居易ファンならピンとくる!
で、相当読み込んでいたに違いありません。
そのことがよく表れているのがこちらの段です。
雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火をおこして、物語などしてあつまりさぶらうに、
「少納言よ。香炉峰の雪はいかならむ」と仰せらるれば、御格子上げさせて御簾を高く上げたれば、笑わせたまふ
雪の降り積もった日の事。せっかくの美しい雪景色にもかかわらず、女房たちは格子を締め切って、火鉢を囲みいろいろとお話をしていました。すると定子様が突然「清少納言よ、香炉峰の雪はどうであろう?」とおっしゃったのです。 香炉峰とは中国の山の名前です。
白居易の詩に「遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴き 香炉峰の雪は簾をかかげて看る」とありますので
格子を上げさせて、それから簾を高く巻き上げて、外の雪が見えるようにしました。定子様はわが意を得たり!というお顔でにっこりなさいました。白居易ファンならしびれるひとコマですね。
白居易のブームはもちろん中国で広がりました。中国の詩史に大きく流れを変えた詩人。新しい爽やかな風を送り込んだ詩人であると紹介されています。この白居易の詩、これまた描写力がすごごごごいのです。
- 【長恨歌:玄宗皇帝と楊貴妃の物語】から、楊貴妃の美しさを「眸(ひとみ)を廻らしひとたび笑えば百媚生じ」
意味:くるっと振り向いてにっこり笑えば匂いたつその艶やかさ♡
- 【新楽府:胡旋女】から 胡旋舞とは連続した急旋回を基調とするダイナミックな回転が魅力の舞。
これを白居易の表現は、「心は絃の音に応じ、手は鼓の音に応ずる。雪は風に舞って回り、蓬はまろびつつ舞う。疲れも知らず千回万回はてしなく回り続ける。世に並ぶものなきその速さ。つむじ風さえのろく見える。」
中国四千年の歴史からの和菓子たちお楽しみいただけましたでしょうか♡
枕草子までちょっと遠回りしてしまいましたが(汗)
来月、長月!
枕草子を和菓子にいたしますのでお楽しみに♪